「高校教科書採択妨害問題のアピール」賛同のお願い

下記アピールの賛同署名を集めています。ご協力いただける方は「賛同署名の入力」ページから入力下さい。 賛同署名第三次締め切り日: 2014年5月15日

アピール

教科書採択への不当な政治的介入をやめさせ、子どもにとってもっともふさわしい教科書を教員が選べるようにすることを広く訴えます

 

2012 年から、高校教科書の採択をめぐって異常なことがおこっています。戦後一貫して高校の教科書は学校ごとに選び、公立校の採択事務を取り扱う地方教育委員会は学校が選んだ通り採択手続を行ってきました。ところが 2012 年に東京都と横浜市で、特定の教科書について学校が選定しても教育委員会がその採択を拒否するということがおこりました。2013 年には、東京都、神奈川県、大阪府、大阪市の教育委員会が、実教出版『高校日本史』の記述が当該の各教育委員会の考え方と異なるなどとの見解を発表し、検定に合格しているにもかかわらず当該教科書を採択しないよう圧力をかけ、東京、神奈川の都県立高校での採択はゼロになりました。

 

各教育委員会が問題にしたのは、当該教科書が、国旗・国歌法成立時に政府は国民に強制するものではないことを国会審議で明らかにしたにもかかわらず、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と記述した点です。文部科学省もその記述自体は客観的事実であると認め、検定に合格させました。しかし卒業式・入学式等で教職員に国歌の起立斉唱を強制し、応じない者に懲戒処分を科してきた各教育委員会は、それを強制とはいえないとの主張にもとづき、当該教科書の採択を制限ないしは禁止したのです。

 

そもそも、検定制度によって多種類の教科書が発行されるようになった戦後においては、高校はもちろん、1963年までは小中学校においても、学校ごとで選んだ教科書がそのまま採択されていました。授業で使う教科書を実際に授業を行う教員が選ぶのは、ごくあたりまえのことではないでしょうか。学習指導要領も教育課程の編成は学校が行うとしており、教育課程にもとづき授業を実施するさいに重要な役割をはたす教科書は、この面からみても教員が選ぶのは当然です。東京都教育委員会も各学校が教科書の調査研究結果と生徒の実態をふまえて選定するとしてきました。

日本も参加して1966 年に全会一致で採択された国連ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」61 項でも、教員は学問の自由を享受し、教科書の選択では不可欠の役割が与えられるべきとうたわれています。したがって、学校の教員が選んだ教科書を拒否する権限が教育委員会にあるとは到底考えられず、現行の教育法制上も、文科省の検定に合格した教科書の内容の是非について教育委員会が再度判定する権限は認められておりません。世界でも学校以外の行政機関が教科書選定の権限をもっている国はごくまれで、小中学校の広域採択制度も含めて日本の教科書採択のありかたは国際的にも異例というべきです。

 

今回、教育委員会が採択を制限ないし拒否した理由として教育委員会の考え方と異なることをあげていることは、いっそう重大な問題です。教育委員会の考え方と異なる考え方を一切生徒の目に触れさせないということは、行政権力による言論統制であり、その結果、生徒は多様な考え方にふれながら自らの人格と思想を形成していく権利、すなわち憲法 26 条で保障された学習権を奪われることになります。学校教育法がかかげる「社会について、広く深い理解と健全な批判力を養」うという高校教育の目標も達成できないことになります。旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決(1976年)が「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」としていることに照らしても憲法違反である。また、定められた手続をへて教科書として承認された出版物の普及を教育委員会という行政権力が阻止することは、出版の自由の侵害です。いずれも重大な憲法違反の行為です。

 

このような違憲違法の行為について、一部地方議員が加担し、埼玉県議会文教委員会が当該教科書を採択した学校長を呼び出して詰問するという事態もおこりました。まさに教育基本法が禁じる教育に対する「不当な支配」そのものです。

また、沖縄県竹富町教育委員会が法的になんら瑕疵のない手続によって東京書籍版中学公民教科書を採択したことに対し、文科省が育鵬社版教科書を採択するよう是正措置を要求する事態が最近おこりました。石垣市・与那国町・竹富町は一つの採択地区を構成していますので、同一の教科書を採択することが法律で定められていますが、三市町教育委員会の採択結果が異なった場合は、あくまでも各市町教育委員会の協議によって採択を決めるのが正当な手続であるにもかかわらず、国が一方的に竹富町にのみ是正を求め、育鵬社版の採択を要求するのは、国家権力による地方教育行政に対する「不当な支配」といわなければなりません。

 

松江市では、教育行政当局によって市立学校図書館で『はだしのゲン』が閉架措置にされ、子どもたちの目にふれないようにされたことが大きな問題になりました。高校教科書採択への政治的介入と同様に、憲法で保障された言論思想表現の自由の侵害、児童生徒の学ぶ権利の侵害が、政治家も加担して深い思慮もなく簡単にふみにじる事態がひろがることを、私たちは深く憂慮します。

政権にとって都合の悪い事実を国民の目から隠す基本的人権の侵害が誤った戦争に国民を動員することにつながったことを、いまこそ私たちは思い起こさなくてはなりません。そして人権侵害の既成事実の積み重ねが人権を軽視する憲法改定にもつながっていくことになります。私たちは日本の未来のために、そのような事態をなんとしてもくいとめなくてはなりません。

 

そのため、私たちは、教科書採択への不当な政治的介入をやめさせ、子どもにとってもっともふさわしい教科書を教員が選べるようにすることを、全ての方々に広く訴えます。

2013 年 12 月  (呼びかけ人は別紙参照)

 

アクセスカウンター